【ハワイ、パラオに続き】タイで珊瑚に有害な日焼け止め剤の法規制を導入
海遊びやキャンプなど、アウトドアでのアクティビティには必需品とも言える日焼け止め。この日焼け止めに含まれる成分が珊瑚の生育に悪影響を及ぼすとして、ハワイやパラオでは持ち込みや販売、流通が禁止されていることを知っていますか?
そして2021年8月、タイでも日焼け止め剤の法規制が導入されました。
こうした動きは、今後さらに広がりをみせていくかもしれません。地球規模で気候変動が起こり、温暖化、海水面上昇などの問題を私たち一人ひとりも真剣に考えなければいけない今、何気なく使っている日焼け止めにも正しい知識をもって選ぶことが大切です。
そこでこの記事では、日焼け止め規制の経過や現状をご紹介。また、日焼け止めの成分が珊瑚礁に及ぼす影響や、該当する化学物質についても解説していきます。
・法規制の高まりは珊瑚に有害な物質を特定する研究論文
・ハワイやパラオではすでに法規制が導入されている
◎アメリカ合衆国・ハワイ州
◎パラオ
◎アメリカ合衆国・フロリダ州キー・ウエスト
◎オランダ領ボネール島
◎アメリカ領バージン諸島
◎オランダ領アルバ
◎メキシコ自然保護区域
◎まとめ
日焼け止めに含まれる化学物質が珊瑚を衰退させる原因に
海へ入る時、当然のように使う日焼け止め。
肌に塗った日焼け止めは、海へ入れば海中に流れ出ます。この日焼け止めに含まれる特定の成分が、珊瑚の生育を阻害したり、衰退や白化現象を引き起しているという研究論文をきっかけに、世界有数のビーチリゾートでそうした成分を含む日焼け止めが法規制されています。
問題となっている成分は、「オキシベンゾン」「オクチノキサート(日本ではメトキシケイヒ酸エチルヘキシルと記載される)」といった石油由来化合成分。これらの成分は、紫外線吸収剤として日焼け止めに配合されています。
紫外線吸収剤とは、肌に当たった紫外線を吸収して熱などのエネルギーに変換し、皮膚内部に紫外線が浸透して日焼けや肌の炎症が起こるのを防ぐための成分。
日焼け止めには、この紫外線吸収剤か、紫外線錯乱剤(紫外線を反射することで日焼けを防止。酸化亜鉛などの天然由来成分がその役目を果たす)のいずれかが配合されています。
紫外線吸収剤が石油由来化合物であるのに対し、紫外線錯乱剤は酸化亜鉛、酸化チタンなどの天然鉱物由来の成分のため、海洋環境への影響は少ないと考えられています。
紫外線吸収剤も紫外線錯乱剤も、日焼け止めの性能(=紫外線防止機能)を担う成分。そのため、日本で販売・流通している日焼け止めにも、「オキシベンゾン」「オクチノキサート」が配合されている製品は数多くあります。
法規制の高まりは珊瑚に有害な物質を特定する研究論文
2015年に発表された研究論文(※1)によると、紫外線遮へい効果をもつオキシベンゾンが、62ppt(オリンピック競技用のプール6個半中の水滴1滴)の低濃度であっても珊瑚のDNAにダメージを与え、その幼生に著しい奇形を発生させることがわかりました。さらに、オキシベンゾンは環境ホルモンとして作用し、その作用によって珊瑚は自身の外骨格に閉じ込められ、死に至ると指摘しています。
2008年にもパラベン、桂皮酸、ベンゾフェノン、カンファーが珊瑚の白化現象の原因になっているとの研究論文(※2)が発表され、オキシベンゾン、ベンゾフェノン、メトキシケイヒ酸エチルヘキシルについては、2001年に環境ホルモンの影響があるとの研究発表(※3)も行われています。
こうした研究報告を受け、今回タイでも法規制が導入されることになりました。規制の対象となったのは下記の石油由来合成成分。
・オキシベンゾン
・オクチノキサート(メトキシケイヒ酸エチルヘキシル)
・エンザカメン(メチルベンジリデンカンファ)
・ブチルパラベン
これらの成分が入った日焼け止めの国立公園内への持ち込みおよび使用が禁止され、違反した場合は10万バーツ(約35万円)の罰金が課されることになります。
(※1)米国バージニア州のハエレティクス環境研究所のクレイグ・ダウンズ博士らによる論文。環境毒物学専門誌「アーカイブス・オブ・エンバイロンメンタル・コンタミネーション・アンド・トキシコロジー(Archives of Environmental Contamination and Toxicology)」に掲載された。
(※2)イタリアPolytechnic UniversityのRoberto Danovaro教授による論文。「エンバイロン・ヘルス・パースペクト(Environ Health Perspect)」に掲載された。
(※3)スイスの「the Institute of Toxicology」による研究発表。
ハワイやパラオではすでに法規制が導入されている
こうした日焼け止めの法規制を、すでに導入している国や州もあります。
アメリカ合衆国・ハワイ州
世界で初めて、日焼け止めの販売を禁止する法案を可決したのが米国ハワイ州です。
2018年7月に「オキシベンゾン」「オクチノキサート」を含む日焼け止めの販売を禁止する法案が可決、2021年1月より施行されました。
パラオ
パラオでは、ハワイの法案施行よりも1年早く、2020年1月から10種類の石油由来合成成分を含む日焼け止めとスキンケア製品の販売・使用を禁止しています。規制はハワイよりも厳格で指定物質は以下の10種類。
・オキシベンゾン
・オクチノキサート
・オクトクリレン
・エンザカメン
・トリクロサン
・メチルパラベン
・エチルパラベン
・ブチルパラベン
・ベンジルパラベン
・フェノキシエタノール
パラオの規制の特徴は、これらの成分の中に紫外線吸収剤だけでなく石油由来の合成防腐剤が含まれていること。特に、「フェノキシエタノール」「メチルパラベン」は、日本の一般的な日焼け止めや化粧品に使われています。
これらの成分も、パラオでは珊瑚や海洋環境に有害として禁止されているのです。販売した場合は最高で1,000ドル(約10万円)の罰金が課され、海外から持ち込まれた場合、観光客であっても没収となります。
アメリカ合衆国・フロリダ州キー・ウエスト
フロリダ州の南端にあるキー・ウエストは、アメリカ随一の珊瑚礁を誇る観光地。ハワイに続いて、2021年1月からオキシベンゾン、オクチノキサートを含む日焼け止めの販売が禁止されています。
オランダ領ボネール島
カリブ海に浮かぶボネール島でも、ハワイと同様の法規制を施行。オキシベンゾン、オクチノキサートを含む日焼け止めの販売が2021年1月から禁止されています。
アメリカ領バージン諸島
同じくカリブ海に浮かぶバージン諸島では、ハワイで規制された物質に加え「オクトクレリン」を含む日焼け止めの販売、配布、輸入が2020年3月から禁止されています。
オランダ領アルバ
ボネール島にもほど近いアルバでは、2020年7月からオキシベンゾンを含む日焼け止めの販売が禁止。さらに、すべての使い捨てプラスチックが禁止されています。
メキシコ自然保護区域
法規制にまでは至っていませんが、メキシコではカンクンニアるリゾート地リビエラ・マヤやシェルハ海洋公園など一部の自然保護区域で、特定の有害物質を含む日焼け止めの不使用が推奨されています。
また、カリフォルニア州でもハワイやキー・ウエストに次いで、特定物質を含む日焼け止めを規制することが検討されるなど、世界中のビーチリゾートや観光地、自然保護エリアで同様の動きは広がっているのです。
ーーー>日焼け止めが珊瑚礁に与える影響について詳細は「珊瑚の白化はなぜ起こる?海を守るためにできること」をcheck!
まとめ
珊瑚礁は、地球表面の面積のわずか0.1%しか占めていないのですが、そこに海洋生物の1/4が暮らしているとされ、地球上の二酸化炭素濃度をコントロールする存在でもあります。
珊瑚礁が地球にとってどれほど重要かを知ることで、各国で行われている日焼け止めへの法規制の重要性も理解できるのではないでしょうか。
日本ではまだこうした法規制の動きはありませんが、世界で規制されている「オキシベンゾン」「オクチノキサート(日本ではメトキシケイヒ酸エチルヘキシルと表記されています)」を含む日焼け止めを買わない、使わないというアクションは今日からでも始めることができます。
自分が選ぶもの、使うものが環境にどんなインパクトを与える(可能性がある)のか?その想像力をもって、日常的に地球に優しい行動を心がけたいですね。